高いもの、美味いもの
昨年10月末、新潟地震が起きてから今日に至るまで、新潟の酒ばかり買っている事は「断然欠席」に書いた。
平素はそれなりの値段の酒を呑み、給料日では奮発して高い酒を買い、呑み会でもなるべく新潟の酒を誂える。そして半年あまり。当初の予定どおり、ここで一区切りとしたい。また秋田の酒に戻りたい。
最後ということで、今まで手の出なかった一番高い酒を買ってみた。一升瓶で8000円を超える。
容器代は考えないで、一合が800円以上、今日だけで1600円呑んでしまうのかと、つい損得勘定が出てしまって情けない。
大事に燗を取る、香気ふくいくとして堪らない。口に含む。味わう心算で、美味しさのあまり、ただ飲み込んで仕舞った。止むを得ない。
少しずつ楽しむ筈が、普段以上のペースで片付けて仕舞った。お酒の味がよい所為也。
これだけの酒は、後生大事に取っておくという法はない。少しずつ味が落ちていってしまうだろう。早めに呑み尽すに限る。
「・・・・・・クルや、蒲焼は高いのだよ。高いからうまいのだ。おさつやいわしも高ければもつとうまいだらう。安いからおろそかにされるのだ。もつと高くなつて、高くて食べられない程高くなれば、食べたらきつとうまいだらうと想像する事が出来る。わかったかい。・・・・・・」
内田百閒 「猫の耳の秋風」